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潰瘍性大腸炎と病態モデル

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 ●食品機能研究ニューズ(08年3月・6月合併号)

●2008年6月2日発行  (株)メルシャン クリンテック 受託試験部  【第26号】

 いつも当社のメールマガジンを愛読していただき、ありがとうございます。遅くなりましたが、「食品機能研究ニューズ(第26号)」をお送り致します。本来ならば3月中にこのメールマガジンをお送りするところでしたが、当社における試験受注が当時期に非常に集中したため、メールマガジンの発行が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
 今回は、炎症性腸疾患の中でもクローン病と共に増加の傾向を示しています潰瘍性大腸炎の特集を組みました。このメールマガジンでは、潰瘍性大腸炎に関する最近の情報と当社で作製した病態モデルを分かり易く紹介したつもりです。メールマガジンの情報が皆様方の医薬品開発業務や食品開発業務における今後のヒントになれば幸いです。


1. 潰瘍性大腸炎の最近情報

1.1 潰瘍性大腸炎とは

 潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に糜爛(びらん)や潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。下血を伴う、または伴わない下痢と頻発する腹痛が主たる症状ですが、原因が不明です。潰瘍性大腸炎の病変は主として直腸に始まり連続性・対称性に炎症が及ぶので、その罹患範囲から直腸炎型、左半結腸炎型、全大腸炎型および区域型〜右半結腸炎型に分類され、血行支配に相関した病変が特徴的です。潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)は、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)に分類されクローン病(Crohn’s disease, CD)と共に難病に指定されています(北野,1985;朝倉,1997)。

1.2 患者数

 国内における潰瘍性大腸炎の患者数は、平成14年度の特定疾患医療受給者証交付件数から判断して約80,000人と考えられ、毎年およそ5,000人の割合で増加しています。発症年齢のピークは男性では20〜24歳、また女性では25〜29歳ですが、若年者から高齢者まで広範囲に発症します。男女比は1:1で性差はありません(特定疾患情報,2006)。

1.3 原因

 厚生労働省の特定疾患調査研究班により潰瘍性大腸炎の研究が行われていますが、未だ原因がよく分っていません。これまでに、原因として腸内細菌の影響や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは食生活の影響などが考えられていますが、まだ不明です。大腸は他の臓器と異なり、数10億以上の腸内細菌と常に接しているので、最近の研究ではこの腸内細菌の影響及び大腸の粘膜防御能が潰瘍性大腸炎の発症に影響を与えていると考えられています。また、潰瘍性大腸炎は家族内での発症も認められていますので、何らかの遺伝的要因も関与していると考えられています(特定疾患情報,2006)。

1.4 炎症の機序

 潰瘍性大腸炎の主役はリンパ球ですが、活動期の大腸粘膜固有層にはリンパ球の他、マクロファージ、好中球、好酸球の浸潤が見られます。マクロファージやTリンパ球は活性化マーカーであるトランスフェリンレセプター(CD71)、インターロイキン(IL)-2レセプター(CD25)、HLA(ヒト白血球抗原)-DR蛋白を発現しています。活性化マクロファージからは、TNF(腫瘍壊死因子)α、IL-1、IL-8、IFN(インターフェロン)-γなどのサイトカインやロイコトリエインB4、PAF(血小板活性化因子)、プロスタグランジンなどの炎症性活性化物質が産生され、これらがTリンパ球、Bリンパ球、NK細胞、血管内皮、腸上皮細胞に作用して炎症が拡大していることが報告されています(朝倉,1997;堀ら,2006)。

1.5 治療法

 原則的には薬による薬物療法が行われます。しかし、重症の場合や薬物療法が効かない場合には外科的治療(手術)が必要です。手術は大腸の全部を摘出しますが、現在では肛門を残す手術が主流で患者さんのQOL(生活の質)が向上しています。一方、薬物療法ではありませんが、血液中から異常に活性化した白血球または顆粒球を取り除く療法としてLCAP(白血球除去療法)およびGCAP(顆粒球除去療法)も行われています。表1に現在、使用されている薬物の種類と特徴を示します(朝倉,1997;特定疾患情報,2006)。

1.6 食品の開発状況

 個別評価型病者用食品として、厚生労働省の許可を受けた発芽大麦GBF(Germinated barley foodstuff、キリンヤクルトネクストステージ社)が2000年より発売されています。発芽大麦GBFは、発芽した大麦のアロイロン層および胚芽を主たる画分とする食物繊維とグルタミンの多いタンパク質の複合体で、軽症から中等度の潰瘍性大腸炎の患者さんの便の性状を整え、QOLの向上を示すとされています(金内,2001)。
 この発芽大麦GBFの作用機構としては、水分保持機能、腸内細菌叢改善作用および酪酸産生作用が報告されています。また、GBFから大腸内で産生された酪酸が転写因子であるNF-κBのDNAへの結合を抑制した結果から、作用機構に炎症性サイトカインの産生抑制が関与している可能性も考えられています(Kanauchi et al, 1998;金内,2001;Kanauchi et al, 2003)。

表1 潰瘍性大腸炎の治療に使われている薬物
薬物の種類
薬物名
特徴
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

・サラゾスルファピリジン(サラゾピリン、SASP)
・メサラジン(ペンタサ、5-ASA)

従来からのSASPとその副作用を軽減するために開発された5-ASAがあります。軽症から中等度の患者さんに有効で、再燃予防にも効果があります。
副腎皮質ステロイド剤

・プレドニゾロン(プレドニン)
・ベタメタゾン

中等度から重症の患者さんに有効で、強力に炎症を抑制しますが、再燃を予防する効果はありません。
免疫抑制剤

・アザチオプリン(イムラン)
・6-メルカプトプリン(ロイケリン)
・シクロスポリン(サンディミュン)

5-ASA製剤や副腎皮質ステロイド剤に無効か、効果が不十分な患者さんと副腎皮質ステロイド剤が中止できない患者さん、いわゆる難治性潰瘍性大腸炎に使用します。
抗菌、ラジカル療法剤 ・メトリニダゾール 特に肛門部病変や腸瘻を形成した患者さんに使用します。
免疫調整療法

・免疫グロブリン
・TNFαキメラ抗体
・IL-10

難治性およびステロイド抵抗性の患者さんに使用します。

2. 潰瘍性大腸炎の病態モデル

2.1 病態モデルの概要

 炎症性腸疾患(IBD)の成因や病態に未解明の部分が多いことも一因として、これらの研究には自然発症大腸炎モデル、化学的・免疫学的機序による大腸炎モデル、遺伝子改変による大腸炎モデルに至るまで、多種多様なモデルが考案されています(Elson et al, 1995; Morales et al, 1996; Macdonald et al, 2000)。このうち、特に薬効評価研究に繁用されているものとしては、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)溶液を飲水させることによるDSS大腸炎モデル(大草,1985)、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)溶液を注腸することによるTNBS大腸炎モデル(Morris et al, 1989;中丸ら,1994)、腸管内に酢酸を注入して作製する酢酸注腸大腸炎モデル(MacPherson et al, 1978;中丸ら,1994;小島ら,2001)があります。
 本メールマガジンでは、当社で作製を行なったDSS誘発マウス大腸炎モデルを紹介致します。

2.2 DSS誘発マウス大腸炎モデル

2.2.1 実験材料および方法

 4週齢で購入したC57BL/6J系雄性マウス(SPF)を2週間予備飼育し、無作為に10匹/群の2群に分けた後、一方を対照群、他方をDSS投与群としました。その後、DSS(分子量5,000、和光純薬工業)を水道水に5%濃度に溶解させ、飲料水として7日間、自由摂取させました。
 DSS飲水投与前および投与後における両群のマウスの体重を測定すると同時に、投与開始後7日間、表2に示す基準に従い下痢、血便の状態を観察しスコア化しました。また、最終日(7日後)にマウスを頚椎脱臼で安楽死させ、大腸組織を摘出後、その全長を測定しました。

表2 下痢スコアと血便スコアの基準
スコア
下痢
血便
1
正常便 正常
2
軟便(水分量の多い有形の便) 目視で便に血が混じっている
3
下痢便(水分量の多い形のくずれた便)
肛門に血液が付着している
4
水様便(ほとんど無形の液状の便) 肛門から常に出血している

 体重、下痢スコア、血便スコアおよび大腸の長さは群毎の平均値±標準誤差を算出しました。体重および大腸の長さのデータについては、Studentのt 検定を行い、またスコアデータについてはMann-WhitneyのU検定を行い、群間の比較を行いました。いずれの検定においても、p<0.05の場合を統計的に有意であるとしました。

2.2.2 実験結果と考察

 体重、下痢スコア、血便スコアおよび大腸の長さの結果をそれぞれ図1〜4に示しています。DSS投与群のマウスは、対照群マウスに比較して6日後および7日後に体重減少を示しました。また、DSS投与群のマウスはDSS投与開始4日後より下痢スコアおよび血便スコアの上昇を示しました。さらに、解剖後の大腸の長さ測定では、対照群に比較してDSS投与群で長さの短縮が認められました。
 以上の結果から、陽性対照薬(例えば5-ASA)が本モデルで有効性を示すかどうかの今後の検討が必要であると思いますが、当社で作製したDSS誘発潰瘍性大腸炎モデルはヒトの炎症性腸疾患(IBD)の実験モデルとして有用であり、医薬品や機能性食品の有効性評価に利用できると考えられます。

図1. DSS誘発潰瘍性大腸炎モデルマウスの体重変化

図2. DSS誘発潰瘍性大腸炎モデルマウスの下痢スコア

図3. DSS誘発潰瘍性大腸炎モデルマウスの血便スコア

図4. DSS誘発潰瘍性大腸炎モデルマウスの大腸の長さ

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3. 参考文献

朝倉 均(1997):7. 炎症性腸疾患.臨床編,炎症と抗炎症戦略(室田誠逸,柏崎禎夫 編),p747-755,医薬ジャーナル社,東京

Elson CO, Sartor RB, Tennyson GS, and Riddell RH(1995):Experimental models of inflammatory bowel disease.Gastroenterology, 109:1344-1367.

堀 正敏,藤澤正彦,尾崎 博(2006):腸炎疾患における消化管筋層部炎症応答と運動機能障害.日薬理誌,128:72-77.

Kanauchi O, Nakamura T, Agata K, Mitsuyama K, and Iwanaga T (1998):Effects of germinated barley foodstuff on dextran sulfate sodium-induced colitis in rats.J Gastroenterol, 33: 179-188.

金内 理(2001):潰瘍性大腸炎患者用食品の開発.ファルマシア,37:633-637.

Kanauchi O, Serizawa I, Araki Y, Suzuki A, Andoh A, Fujiyama Y, Mitsuyama K, Takaki K, Toyonaga A, Sata M, and Bamba T (2003):Germinated barley foodstuff, a perbiotic product, ameliorates inflammation of colitis through modulation of the enteric environment.J Gastroenterol, 38:134-141.

北野厚生(1985):第2節 実験的潰瘍性大腸炎,第3章 その他の治療薬に関して.新薬開発のための動物モデル利用集成,p255-259,R and D プランニング社,東京.

小島僚太郎,浜本昇一,森脇正彦,岩館克治,大脇達也(2001):新たな酢酸誘発性潰瘍性大腸炎モデルの基礎的研究−ラット漿膜内酢酸注入潰瘍性大腸炎モデル−.日薬理誌,118:123-130.

MacPherson BR and Pfeiffer CJ(1978):Experimental production of diffuse colitis in rat.Digestion, 17:135-150.

Macdonald TT, Monteleone G, and Pender SLF(2000):Recent developments in the immunology of inflammatory bowel disease.Scand J Immunol, 51:2-9.

Morales VM, Snapper SB and Blumberg RS(1996):Probing the gastrointestinal immune function using transgenic and knockout technology.Curr Opin Gastroenterol,12:577-583.

Morris GP, Beck PL, Herridge MS, Depew WT, Szewczuk MR and Wallace JL (1989):Hapten-induced models of chronic inflammation and ulceration in the rat colon.Gastroenterology, 96:795-803.

中丸幸一,菅井利寿,本行孝幸,佐藤雅子,谷口 偉,田中友希夫,川瀬重雄(1994):実験的大腸炎モデルに対するメサラジン顆粒の効果.日薬理誌,104:303-311.

大草敏史(1985):デキストラン硫酸投与による実験的潰瘍性大腸炎の作製と腸内菌叢の変動に関する研究.日消病会誌,82:1327-1336.

定疾患情報(2006):潰瘍性大腸炎,消化器系疾患調査研究班(難治性炎症性腸管障害),難病情報センター(ホームページから引用).


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