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●2007年3月19日発行 (株)メルシャン クリンテック環境検査センター 【第22号】
桜のつぼみも膨らみ開花も間近と思われますが、皆様お元気でしょうか。遅くなりましたが、定期的にお届けしております「食品機能研究ニューズ(第22号)」をお送り致します。高齢化社会の到来により、頻尿・排尿困難などの排尿障害を示す患者数が急増しています。そこで、今回は排尿障害に関する最近の話題と当社で実施しています膀胱平滑筋標本ならびに前立腺平滑筋標本を用いた実験の方法および結果の紹介を致します。
蓄尿機能障害には、頻尿と尿失禁(切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁)などが含まれます。また、尿排出機能障害には、排尿困難、残尿、尿閉などが含まれます。いずれの障害の発症機序も神経因性と非神経因性に分類されますが、最終的には膀胱平滑筋の過剰収縮または不完全収縮を示す病態です(小池ら、2006)。
蓄尿機能障害の中で、「尿意切迫感を主症状とし、通常、頻尿および夜間頻尿を伴い、場合によっては、切迫性尿失禁をきたす症候群」を、2002年の国際禁制学会で過活動膀胱(overactive bladder, OAB)と定義されました。日本排尿機能学会が平成14年に行った調査では、日本における過活動膀胱の患者数は、40歳以上の12.4%、推定約810万人であることが分かりました(本間、2004 ;西沢、2004)。
下部尿路は、1日当り4〜7回程度の定期的な尿排出と蓄尿の機能を担っています。蓄尿および排尿は骨盤神経(副交感神経系)、下腹神経(交感神経系)および陰部神経(体制神経系)の3つの神経系により制御されています。蓄尿時には交感神経および陰部神経活動が優位となり、膀胱が弛緩するとともに膀胱頚部および尿道が収縮し、尿を貯留するように働きます。一方、排尿時には副交感神経活動が優位となり、膀胱が収縮するとともに膀胱頚部および尿道が弛緩し、尿が体外に排出されます(木村、1990 ;宮田、2005)。
蓄尿から排尿に至る正常な排尿反射は下部尿路組織の弛緩および収縮のバランスによって制御されていますが、このバランスの不均衡により様々な排尿機能異常が起ります。過活動膀胱も膀胱の蓄尿障害であり、その原因として神経因性と非神経因性に大別されます。しかし、80%以上が臨床的に明らかな神経障害が無い場合の非神経因性です。非神経因性活動膀胱には前立腺肥大症における下部尿路閉塞、加齢、女性の腹圧性尿失禁に代表される骨盤底の脆弱化などがあります(横山、2004 ;柿崎、2006)。
過活動膀胱の原因は様々ですが、蓄尿時の不随意な膀胱収縮がその症状の発現原因の一つと考えられているため、膀胱収縮を抑制する抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)が過活動膀胱の薬物療法の主流になっています(山口、2003 ;大竹ら、2006)。
膀胱の収縮は、副交感神経の活性化に伴い神経終末から放出されたアセチルコリンが膀胱平滑筋のムスカリン受容体に結合することにより惹起されます。ムスカリン受容体には、M1〜M5の5つのサブタイプがあり、膀胱収縮に関わっているのはM3受容体です。しかし、唾液分泌、腸管収縮、毛様体収縮もこのM3受容体で制御されていますので、M3受容体拮抗薬の副作用として口内乾燥、便秘、霧視などが出現し、膀胱に選択性の高いムスカリン受容体拮抗薬が求められています(大竹ら、2006)。
前立腺は二層性の腺組織(腺上皮と基底細胞)および間質組織(平滑筋と繊維平滑筋細胞)から構成され、中高年層になると間質組織の結節状過形成と腺組織の増生がみられます。この前立腺肥大による尿道の圧迫(機械的閉塞)に交感神経を介した前立腺部尿道の過剰収縮による閉塞(機能的閉塞)が重なり種々の症状が引き起こされます(木村、1990)。
前立腺肥大症は、排尿障害(排尿遅延、尿勢低下)に加えて下部尿路閉塞に起因する蓄尿障害(尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁などの過活動膀胱症状)が共存する疾患です。疫学調査によると、60歳以上の男性の50%が、81〜90歳の90%が病理学的な前立腺肥大症で、前立腺肥大症を有する者の1/4〜1/2は排尿障害を有すると報告されています(小林ら、2006)。
前立腺肥大症の治療として外科的治療と薬物療法がとられています。前立腺および尿道平滑筋の過剰収縮に伴う機能的閉塞にα1-アドレナリン受容体の刺激が関与しています。そこで、前立腺肥大を伴う排尿障害の標準的な薬物療法としてα1-アドレナリン受容遮断薬(塩酸プラゾシン、塩酸テラゾシン)が使用されるようになりました。しかし、これらは元来降圧薬として用いられた薬剤ですので、起立性低血圧やめまいなどの副作用がありました(小林ら、2006)。
分子生物学の進歩により、α1受容体にはα1A、α1Bおよびα1Dの3種のサブタイプがあり、ヒトの前立腺や尿道には主にα1A受容体が多く分布していることが明らかになりました。前立腺肥大を伴う排尿障害の治療薬にはα1A受容体に選択性の高い薬剤が有用と考えられ、現在α1A受容体遮断薬が第一選択として用いられています(小林ら、2006)。
副交感神経の活性化に伴い神経終末から放出されたアセチルコリンが膀胱平滑筋のムスカリン受容体に結合することにより摘出膀胱平滑筋の収縮は惹起されます。そこで、ムスカリン受容体作動薬であるカルバコール(Carbachol)で誘発させた収縮に対するアトロピン(Atropine、ムスカリン受容体遮断薬)の作用を検討しました。
ウサギをペントバルビタール麻酔下に開腹し膀胱を摘出しました。栄養液(Krebs液)の中で膀胱体部より幅2mm、長さ15mmの条片状標本を作製しました。この標本を10mLのKrebs液を満たしたオルガンバス(37℃、95% O2・5% CO2混合ガス飽和)中に1gの負荷をかけて懸垂し、収縮力を張力トランスジューサおよび圧力用アンプを介してポリグラフ上に等尺性に記録しました。
カルバコール(10-8〜3×10-6M)を累積的に添加して濃度―反応曲線の作製を繰り返し行い、再現性を確認しました。次にアトロピン(10-8M)を10分間前処置した後、カルバコール(10-8〜10-4M)を累積的に添加して濃度―反応曲線を作製しました。
代表的なチャートを図1に、また収縮率の測定結果(Mean±S.E., n=5)を図2にそれぞれ示しました。アトロピン(10-8M)はカルバコールの収縮を抑制し、その濃度―反応曲線を右方に平行移動させました。この抑制様式は、ムスカリン受容体遮断による競合的な拮抗作用と考えられました。この膀胱平滑筋標本を用いた実験は、膀胱収縮を抑制する機能性食品や医薬品の有効性評価と作用機序研究に有用であると思われます。
図1 ウサギ膀胱平滑筋のCarbachol収縮に対するAtropineの作用
図2 ウサギ膀胱平滑筋のCarbachol収縮に対するAtropineの作用
前立腺平滑筋の過剰収縮に伴う膀胱の機能的閉塞にα1-アドレナリン受容体の刺激が関与しています。そこで、αアドレナリン受容体作動薬であるノルエピネフリン(Norepinephrine)で誘発させた収縮に対する5-メチルウラピジル(5-methylurapidil、5-MU、α1A-アドレナリン受容体遮断薬)の作用を検討しました。
前項の膀胱平滑筋の場合と同様に、Krebs液の中で前立腺被膜より幅2mm、長さ15mmの条片状標本を作製し、収縮力をポリグラフ上に等尺性に記録しました。ノルエピネフリン(10-8〜10-4M)を累積的に添加して濃度―反応曲線の作製を繰り返し行い、再現性を確認しました。次に5-MU(10-8M)を20分間前処置した後、ノルエピネフリン(10-8〜10-3M)を累積的に添加して濃度―反応曲線を作製しました。
代表的なチャートを図3に、また収縮率の測定結果(Mean±S.E., n=5)を図4にそれぞれ示しました。5-MU(10-8M)はノルエピネフリンの収縮を抑制し、濃度―反応曲線を右方に平行移動させました。この抑制様式は、α1A-アドレナリン受容体遮断による競合的な拮抗作用と考えられました。膀胱平滑筋を用いた実験の場合と同様に、この前立腺平滑筋標本を用いた実験は、前立腺収縮を抑制する機能性食品や医薬品の有効性評価と作用機序研究に有用であると思われます。
図3 ウサギ前立腺平滑筋のNorepinephrine収縮に対する5-methylurapidil(5-MU)の作用
図4 ウサギ前立腺平滑筋のNorepinephrine収縮に対する5-methylurapidil(5-MU)の作用
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本間之夫(2004):過活動膀胱、日医雑誌、131、774-775
柿崎秀宏(2006):過活動膀胱の診断、日本医事新報、4278、85
小林 譲、清水智司(2006):前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシン(ユリーフカプセル2mg, 4mg)の薬理学的特性および臨床試験成績、日薬理誌、128、259-268
木村喜代史(1990):7.4 排尿異常治療薬、第7章泌尿生殖器官用薬物及び肛門用薬物の探索、第9巻医薬品の探索II、医薬品の開発(斎藤 洋、野村靖幸 編集)、pp186-202、廣川書店、東京
小池勝夫、田中芳久(2006):シンポジウムII、S-8 Overview 排尿障害の薬物治療、第8回応用薬理シンポジウム(臨床から求められる治療薬の開発)プログラム・要旨、応用薬理、70 (5/6)、149-150
宮田桂司(2005):泌尿器領域における創薬:塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシン、日薬理誌、126、341-345
西沢 理(2004):新しい疾患概念 過活動膀胱、PTM、7(8)
大竹昭良ら(2006):新規過活動膀胱治療薬コハク酸ソリフェナシン(ベシケア錠)の薬理学的特性および臨床試験成績、日薬理誌、128、425-432
山口 脩(2003):過活動膀胱の病態と薬物療法、日薬理誌、121、331-338
横山修ら(2004):過活動膀胱の病態と発生メカニズム−神経因性膀胱を中心に−、日本医事新報、4192、23-27
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