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(株)メルシャンクリンテック 岡島泰夫
第40回日本実験動物技術者協会総会
2006年10月28日、於 京都テルサ
演者はこれまで実験動物の病原微生物モニタリングにおける病原体による汚染率を報告1,2,3)してきた。今回新たに2005年のマウスとラットで汚染率を集計した。特にマウスで更に、初めて「SPF」と「その他」との相異について汚染率の立場で比較検討したので、併せて報告する。
材料は2005年に検査を受託した動物である。「SPF」は検査依頼動物リストの微生物学的統御欄にSPFと明記されたマウスである。「その他」は同欄にConventionalと明記されたマウス以外にSPFとは明記されていなかったマウスも含む。検査匹数はマウス合計(以下省略)8,209匹(SPF4,769匹、その他3,440匹:以下同順)・ラット2,807匹であった。検査は培養・血清反応・鏡検・PCR法で行った。汚染率は項目毎の匹数による陽性百分率表示とした。
培養では黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの汚染率がマウス20.3%(22.0%、19.2%)・ラット79.0%で最も高く、次に肺パスツレラPasteurellapneumotropicaのマウス2.19%(0.94%、3.85%)・ラット8.51%、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaのマウス1.87%(3.29%、0.32%)・ラット1.56%、マイコプラズマMycoplasma spp.のマウス0.65%(0.00%、1.26%)・ラット1.26%であった。血清反応ではマウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)がマウス2.78% (0.04%、5.80%)、マイコプラズマMycoplasma pulmonisがマウス0.51% (0.00%、1.08%)・ラット0.97%であった。鏡検ではアメーバEntamoeba murisがマウス15.1%(19.5%、10.4%)・ラット3.85%、オクトミタスOctomitas intestinalisがマウス2.16% (2.17%、2.16%)・ラット3.48%、トリコモナスTritrichomonas murisがマウス0.72%(0.34%、1.12%)・ラット2.47%、蟯虫Pinwormsがマウス0.49%(0.04%、1.03%)・ラット0.88%であった。PCRではヘリコバクターHericobacter hepaticusにマウス0.41% (0.08%、0.68%)の陽性があった。
(1)マウス・ラット共に黄色ブドウ球菌が各々最高汚染率を示した。また本菌の汚染率はマウスよりラットで格段に高かった。原因としては、施設のハードやソフトの違いよりマウスとラットの本菌に対する感受性・使用目的・飼育期間の違いや、本菌が身近な菌で人獣共通感染病原体で尚且つ日和見感染病原体である事が挙げられる。次に汚染率が高いのはマウスでアメーバ、ラットで肺パスツレラの順であった。以下今回検出された他の項目は、マウス・ラット共に一桁台前半および1%未満の汚染率で、これらは直近の結果2,3)とほぼ同様であった。
(2)マウスで行った「SPF」と「その他」の比較では、その他での汚染率がSPFでの汚染率より、トリコモナスが3倍・ヘリコバクターが8倍・蟯虫が26倍・MHVが145倍、高かった。更にマイコプラズマはその他にのみ検出され、SPFでは検出されなかった。この結果により今回初めてマウスSPF管理の項目別汚染状況が明らかとなった。またSPFと、Conve.を含むその他とを汚染率の立場で比較した場合の、マウスSPF管理総体としての効果とその程度が具体的な項目と数値で確認された。一方、オクトミタス・黄色ブドウ球菌・アメーバ・緑膿菌の汚染率は、SPFとその他が同程度か、SPFがその他より高かった。これらの項目は非病原性原虫或いは日和見感染病原体として知られている。
汚染率はマウス・ラット共に黄色ブドウ球菌が最高であった。以下マウスでアメーバ、ラットで肺パスツレラの順で、他の検出項目に近年特別な変化はなかった。マウスにおける「SPF」と「その他」の比較で、トリコモナス・ヘリコバクター・蟯虫・MHVはその他での汚染率がSPFでの汚染率より各々3〜145倍高く、マイコプラズマがその他にのみ検出された。以上マウスにおけるSPF管理の効果と程度が初めて認識された。
1)岡島泰夫、杉浦彰彦、渡辺輝昭、齋藤學:実験小動物微生物モニタリングの実際、アニテックス、Vol.12,No.4,162〜167,2000、研修社
2)岡島泰夫:実験動物病原微生物検査・モニタリング、今後の検査の方向性について、日本実験動物技術者協会 平成15年度関東支部総会・29回懇話会、2004.2.14、於さいたま市文化センター
3)岡島泰夫:実験小動物病原微生物モニタリング、直近2年間の汚染状況、日本実験動物技術者協会 関西支部 徳島大会、2005.10.29、於徳島市シビックセンターホール
図1.
演者はこれまで「実験動物の病原微生物モニタリング」における病原体による汚染状況を実験動物技術者協会で報告してきました。今回、2005年のマウスとラットで汚染率を集計したので報告します。またマウスで新たに「SPF」と「その他」の相違について汚染率の立場で比較検討したので、併せて報告します。
図2.
材料は2005年に検査をしたマウス、ラットです。マウスは合計8,209匹、ラットは2,807匹でした。これらは日本全国の実験動物施設から検査を依頼された数で、全て実験動物としてのマウス、ラットです。集計期間は1月から12月です。
図3.
検査方法として、培養・血清反応・鏡検・PCRの他、肉眼観察による剖検所見と光学顕微鏡による組織所見やシーケンサーを用いた遺伝子解析を用いました。剖検所見と組織所見および遺伝子解析の結果は今回の集計に含まれておりません。
計算方法は、病原体の検査項目別動物数での陽性百分率(%)表示です。2005年の検査項目別動物数の内、陽性となった動物数を、同検査項目別動物数で割った数に100%をかけた値です。ちなみに分子と分母は検査項目によって異なります。
図4.
培養検査の項目と初代分離培地の組み合わせを示します。肺パスツレラと肺炎球菌はウマ血液寒天培地を用いました。黄色ブドウ球菌から最下段に示す白癬菌群に至るまでの各々の項目には、各々の病原菌に対応するマンニット食塩培地から最下段に示すPD寒天培地にいたるまでの選択培地を用いました。
尚、赤い上付き米印*のある気管支敗血症菌、ネズミコリネ菌、マイコプラズマについてはwhole bodyで検査する場合、血清反応でも検査するようにしています。というより、培養で検査できる項目は血清だけでなく培養でも検査するという基本姿勢をとっております。
図5.
血清反応です。ティザー菌からここに掲げるセンダイウイルスまでは、酵素免疫測定法(ELISA法)でスクリーニングし、一部は間接蛍光抗体法、一部は培養法や発育阻止試験との組合せ、一部は赤血球凝集抑制反応との組合せを用いました。
ネズミコリネ菌と気管支敗血症菌は凝集試験を用い、一部は培養法の結果とで総合判定しました。
図6.
酵素免疫測定法(ELISA法)による他の検査項目を示します。マウスでは最上段1番のカーバチルスから最下段19番のマウス脳脊髄炎(GD7)まで全19項目が、またラットでは同様にカーバチルスからマウス脳脊髄炎(GD7)まで全13項目が輸入試薬を用いたELISA法での検査が可能です。ここに示す全項目はありませんが、一部について輸入試薬を検査に用いました。青文字で示す検査項目の試薬は国内の既存試薬と重複します。このような場合は国内の既存試薬を用いました。
図7.
鏡検です。ハツカネズミケモチダニやネズミケクイダニ・デモデックス等は体表寄生部位および毛包・皮脂腺の視診と患部セロハンテープ法を用いました。しかし吸血時だけ寄生するいわば一撃離脱型のイエダニでは体表だけでなく床敷きや、時に検査依頼者の施設へ出張して飼育室内の架台の隅っこや床・壁のひび割れ部や溝を検査する必要がありました。
ジアルジア、スピロヌクレウス以下アメーバ、トリコモナス、オクトミタス等消化管内原虫はその寄生部位である十二指腸や盲腸内容物の直接塗抹法です。
ネズミ大腸蟯虫、ネズミ盲腸蟯虫とラット蟯虫はセロハンテープ法と盲腸及び結腸近位腸管内容物の塗抹法です。
コクシジウムは集オーシスト法です。
図8.
遺伝子増幅法Polymerase Chain Reaction(PCR)の通常検査ではヘリコバクター ヘパティカスとビリスを検査しました。
図9.
結果です。マウスにおける病原体による汚染率、2005年のSPFとその他の全体で、培養検査の陽性項目です。黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusが20.3%とマウスでは最高汚染率を示しました。肺パスツレラPasteurella pneumotropica 、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaが各々2.19 、1.87%と一桁台前半、マイコプラズマMycoplasma spp.が0.61%で1%未満でした。
図10.
培養検査では一番上に示すサルモネラSalmonella spp.から一番下の白癬菌群Dermatophytesまで0%でした。上付き*は特別依頼検査項目です。
図11.
血清反応ではマウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)に2.78%、マイコプラズマMycoplasmapulmonisに0.51%の陽性がありました。
図12.
表で一番上のリンパ性脈絡髄膜炎ウイルスLymphocytic choriomeningitis virus(LCMウイルス)から一番下のレオウイルスReovirus type 3まで全項目が0%でした。
図13.
鏡検ではアメーバEntamoeba murisが15.1%とマウスでは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの次に高い汚染率を示しました。このアメーバは直近のデータと比較すると汚染率が低くなってきています。オクトミタスOctomitas intestinalisが2.16%、トリコモナスTritrichomonas murisが0.72%、蟯虫Pinwormsが0.49%でした。
図14.
ジアルジアGiardia murisからスピロヌクレウスSpironucleusu muris、ニュモシスティス・カリニPneumocystis carinii、帯状嚢虫Cysticercus fasciolarisまで0%でした。
図15.
PCRではヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusに0.41%の陽性がありました。
図16.
ヘリコバクター ビリスHericobacter bilisは0%でした。
図17.
以上、マウスの病原体と汚染率をグラフで示します。2005年のSPFとその他の全体では、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusがマウスで最高汚染率の20.3%を示しました。約20%です。次がアメーバEntamoeba murisの15.1%です。アメーバは直近2003年2004年より汚染率が低下してきました。以下マウス肝炎ウイルスMHV、肺パスツレラPasteurella pneumotropica 、オクトミタスOctomitas intestinalis、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaが一桁台前半、トリコモナスTritrichomonas muris、マイコプラズマMycoplasma spp.培養、マイコプラズマMycoplasmapulmonis血清、蟯虫Pinworms、ヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusが1%未満で、この順でした。これらの結果は、アメーバEntamoeba murisの汚染率が下がった事以外は2003年2004年の結果とほぼ同様でした。
図18.
ラットにおける汚染率です。黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusが78.9%とラットで最高の汚染率でした。先程のマウス20%と比較して格段に高い汚染率です。次が肺パスツレラPasteurella pneumotropicaの8.51%でした。緑膿菌Pseudomonas aeruginosa、マイコプラズマMycoplasma spp.は各々1.56%、1.26%でした。
図19.
気管支敗血症菌Bordetella bronchiseptica、ネズミコリネ菌Corynebacterium kutscheri、肺炎球菌Streptococcus pneumoniae、サルモネラSalmonella spp. 白癬菌群Dermatophytesまで0%でした。
図20.
ラットの血清反応では、マイコプラズマMycoplasmapulmonisに0.97%の陽性がありました。
図21.
ハンタウイルスHantavirus、センダイウイルスSendai virus(HVJ)からカーバチルスCilia associated respiratory bacillsまでこの表に示す全項目が0%でした。
図22.
鏡検ではアメーバEntamoeba murisが3.85%、オクトミタスOctomitas intestinalisが3.48%、トリコモナスTritrichomonas murisが2.47%で一桁台前半、蟯虫Pinwormsが0.88%の1%未満でした。
図23.
ジアルジアGiardia muris 、スピロヌクレウスSpironucleusu muris 、コクシジウムEimeria spp. から小型条虫Hymenolepis nana まで0%です。
図24.
以上、ラットにおける病原体の陽性項目と汚染率を示すグラフです。2005年のSPFとその他の全体では、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの汚染率が78.9%・約80%と汚染項目中ラットで最も高く、マウス・ラットを通じて最高汚染率でした。マウスで最高汚染率を示した黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus の20.3%・約20%と比較しても格段に高い汚染率を示しました。次に汚染率が高いのは、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusより一桁小さくなり、肺パスツレラPasteurella pneumotropica、の8.51%で一桁台後半です。以下アメーバEntamoeba muris 、オクトミタスOctomitas intestinalis 、トリコモナスTritrichomonas muris 、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa 、マイコプラズマMycoplasma spp.培養の一桁台前半、マイコプラズマMycoplasmapulmonis血清、蟯虫Pinwormsの1%未満の順でした。これらは2003年、2004年の結果とほぼ同様でした。
図25.
今回特に施設の微生物統御で、マウスにおけるSPF管理とその他の管理との相違について汚染率の立場で比較検討しました。材料は先程述べた2005年のマウス合計8,209匹の内SPFが4,769匹、その他が3,440匹です。同様にラットは合計2,807匹の内SPFが2,258匹、その他が549匹でした。ここで言うSPFは検査依頼動物リストにSPFと明記されていた動物の合計です。その他は同リストにConventionalと明記されていた動物と、それ以外にSPFとは明記されていなかった動物を含めた数の合計です。尚、ラットではその他が549匹と他より桁違いに少なかったため、今回の比較検討からはぶきます。
微生物学的統御上の区分でのSPFマウスの飼育環境は一般にバリア施設です。しかしその内容は一律ではありません。根本的に実験目的が施設によって異なります。施設によって建物・空調設備・飼育室内環境・運用・飼育管理から個々の実験の目的・病原微生物の検査項目に至るまで全国全施設一律ではあり得ません。ここでは排除対象病原微生物が明確にされており、各々の実験動物施設固有の基準に基づいて施設および動物の微生物学的統御が行われていて、個々の施設がSPFという範疇・カテゴリーで認識している「いわゆる微生物学的統御上の区分としてのSPF」です。
図26.
培養検査での陽性検出項目を示します。汚染率は黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusがSPFとその他全体で20.3%の内、SPFだけでは22.0%、その他だけでは19.2%でした。同様に緑膿菌Pseudomonas aeruginosaがSPFで3.29%、その他で0.32%と、汚染率はSPFの方が高い。肺パスツレラPasteurella pneumotropicaはSPFが0.94%、その他が3.85%でその他の汚染率の方が高い。マイコプラズマMycoplasma spp.はその他で1.26%の汚染がありましたが、SPFでは汚染が無くて0%でした。
図27.
血清反応ではマウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)がSPFで0.04%、その他で5.80%とその他の汚染率がSPFに比較して極めて高く、特にマイコプラズマMycoplasmapulmonisではその他に1.08%の汚染率がありましたが、SPFでは汚染が無くて0%でした。
図28.
鏡検ではアメーバEntamoeba murisがSPFで19.5%、その他で10.4%でした。オクトミタスOctomitas intestinalisはSPFが2.17%、その他が汚染率は2.16%と、SPFその他で同じです。トリコモナスTritrichomonas murisがSPFで0.34%、その他1.12%、蟯虫PinwormsがSPFで0.04%、その他1.03%で共にその他の方が高い値を示しました。
図29.
PCRではヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusがSPFで0.08%、その他で0.68%と、汚染率はその他の方が高い。
図30.
マウスにおけるSPFとその他の汚染項目と汚染率を比較した表です。表が込み入ってきましたので比較欄1)、赤文字の数値にご注目ください。赤文字数値はその他の汚染率をSPFの汚染率で割った値、つまり汚染率はその他がSPFの何倍かを示しています。
マイコプラズマで言えば、その他にマイコプラズマ培養Mycoplasma spp.とマイコプラズマ血清Mycoplasmapulmonisで各々1.26%、1.08%の汚染がありましたが、SPFでは両方とも0%でした。つまりConventionalを含むその他の管理で総体としては、マイコプラズマに対して約1%の侵入を許してしまったけれども、SPFの管理では総体としてマイコプラズマに対して侵入(厳密には感染の成立)を許さなかった。そしてマウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)ではその他の汚染率がSPFの汚染率より145倍高かった。同様に蟯虫Pinwormsで25.8倍、ヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusで8.5倍、肺パスツレラPasteurella pneumotropicaで4.1倍、トリコモナスTritrichomonas murisで3.29倍その他がSPFより汚染率が高かった。この事は、実験動物施設で高額なバリア施設を建て、高性能ヘパフィルターを用い、陽圧の飼育環境をつくり、温度湿度を一定に保ち続ける努力を重ねてハードによる微生物統御に苦労を重ねるのみならず、さらに各々の施設のSOPに従って例えば湿式や乾式で手足を消毒し、手袋をはめ、マスクを装着し、オートクレーブ滅菌済みの頭巾をかぶり、無埃衣で出来た滅菌済みツナギを着て頭巾の裾をツナギの内側に入れて、ツナギズボンの下部をすっぽり覆ってしまうように靴下を履いて埃を出さないように自分をすっぽり包み込んで、滅菌消毒ずみの履物を履いて、更にエアシャワーで体表面の埃を吹き飛ばしてからバリア施設の清浄区域内へ入るという、飼育管理や実験を担当されている方々が大変な苦労をしてソフトによる微生物統御を行ってこられた事による、勝利の証であります。また2005年に検出されなかった(この表に示されていない)項目、例えばセンダイウイルスSendai virusやティザー菌Clostridium piliforme等に対してはSPF,その他全体での勝利の証です。更に一歩踏み込んでいえばこの表ではマイコプラズマ以外では敗北の証でもあります。
SPFの汚染率がその他の汚染率より低い部分に示された項目は、SPF管理による病原体の具体的汚染項目名です。赤文字の数字は、SPF管理による病原体汚染に対するその他管理との総体としての効果の程度を具体的に示す数値です。これらが、本集計結果によって初めて明らかとなりました。
また、オクトミタスOctomitas intestinalisと黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの汚染率はその他がSPFの各々1.00倍と0.87倍で、同程度でした。さらにアメーバEntamoeba murisはその他がSPFの0.53倍、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaはその他がSPFの0.10倍となりました。これらはSPFの方がその他より汚染率が高かった事を示しています。表に示す項目の内、トリコモナスTritrichomonas muris 、オクトミタスOctomitas intestinalis 、アメーバEntamoeba murisは非病原性原虫として知られております。黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusと緑膿菌Pseudomonas aeruginosaは日和見感染病原体として知られている項目です。
図31.
2005年の汚染状況を総括し、若干の考察をします。
I:最初にSPFとその他全体の汚染率です。
1:マウスでは、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの約20%が最高で次にアメーバEntamoeba murisでした。以下マウス肝炎ウイルスMHV、肺パスツレラPasteurella pneumotropica、オクトミタスOctomitas intestinalis、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaが一桁台前半、トリコモナスTritrichomonas muris、マイコプラズマMycoplasma spp.培養、マイコプラズマMycoplasmapulmonis血清、蟯虫Pinworms、ヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusで1%未満の順でした。
2:ラットでは、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの約80%が最高で、次が肺パスツレラPasteurella pneumotropica、の8.51%で一桁台後半でした。以下アメーバEntamoeba muris 、オクトミタスOctomitas intestinalis 、トリコモナスTritrichomonas muris 、緑膿菌Pseudomonas aeruginos 、マイコプラズマMycoplasma spp.培養が一桁台前半、マイコプラズマMycoplasmapulmonis血清、蟯虫Pinwormsの1%未満でこの順でした。
図32.
II:2005年のマウスにおける総体としてのSPFとその他を汚染率の立場で比較検討した結果、
1:マイコプラズマ培養Mycoplasma spp.とマイコプラズマ血清Mycoplasmapulmonisがその他では各々約1%検出されたが、SPFでは検出されなかった。
2:マウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)、蟯虫Pinworms、ヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticus 、肺パスツレラPasteurella pneumotropica 、トリコモナスTritrichomonas murisの汚染率は、SPFがその他より低かった。以上によりSPF管理総体としての具体的な病原体別汚染項目名が明らかになり、その効果の程度が具体的な数値として確認された。
3:オクトミタスOctomitas intestinalisと黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの汚染率は、その他とSPFで同程度でした。
4:アメーバEntamoeba murisと緑膿菌Pseudomonas aeruginosaの汚染率は、その他よりSPFで高かった。これらの項目は全て日和見感染病原体か非病原性原虫であった。
図33.
III:まとめます。
1:2005年の汚染状況は、
1)マウスでは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの約20%が最高で、次にアメーバEntamoeba murisであった。
2)ラットでは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの約80%が最高で、次に肺パスツレラPasteurella pneumotropicaであった。
3)他の検出項目は、マウス、ラット共に一桁台前半以下であた。
2:マウスにおけるSPFとその他の比較では、
1)マイコプラズマ培養Mycoplasma spp.とマイコプラズマ血清Mycoplasmapulmonisはその他で汚染があったがSPFでは汚染がなかった。
2)その他の汚染率は、マウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus(MHV)で145倍、蟯虫Pinwormsで26 倍、ヘリコバクター ヘパティカスHericobacterhepaticusで9倍、肺パスツレラPasteurella pneumotropicaで4倍、トリコモナスTritrichomonas murisで3倍、SPFより高かった。
以上2005年のマウス、ラットにおける病原体による汚染状況と、今回特にマウスにおけるSPF管理の具体的な汚染病原体の項目名が明らかとなり、その効果の程度が具体的な数値で確認された。
図34.
IV:今回の集計結果から、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusについて、
1:マウス、ラット共に最高汚染率を示した。
2:マウスよりラットで汚染率が格段に高かった。
3:マウスにおける汚染率は、SPFとその他でほぼ同程度であった。
という結果がでました。この3点について若干の考察を加えます。
図35.
IV:黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus
1:マウス、ラットで共に最高汚染率を示した点について
(1) 理由の一つとして、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusはヒトの生活環境に常在する菌である事が挙げられます。ヒトにも黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの保菌者がいる。ヒトは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに対して感受性宿主であり、この事は後で述べますが、実験動物に対する感染源となる事を意味しています。
(2)黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusはマウス、ラットの飼育環境に常在する菌である。そしてマウス、ラットにも黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの保菌動物がいる。現在の実験動物としてのマウス、ラットは共に黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに対して感受性宿主であり、この事は後で述べますが、ヒトに対する感染源となる事を意味しています。
(3)黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusは人獣共通感染病原体である。しかも実験動物としてのマウス、ラットの飼育管理と実験はヒトが行う。更に踏み込めば、実験動物としてのSPFマウス・ラットはヒトによって作出されます。環境およびヒトとSPFマウス・ラット間の感染経路を遮断できない。これら(1)(2)(3)の状況下でマウス、ラットでの黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusによる汚染を防ぐ事は至難の技であると考えます。
(4)黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusが日和見感染病原体である事は周知の事実です。つまり免疫抑制試験でなければ、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusによるマウス、ラットの汚染は許容される。
図36.
2:マウスよりラットで汚染率が格段に高かった事について
(5) 黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに対する感受性はマウスよりラットの方が高いと従来から言われていた。今回の集計結果ではマウスでの汚染率約20%、ラットでの汚染率約80%と、ラットの方がマウスより格段に高い値を示しました。従って、本結果は上記の「黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに対する感受性はマウスよりラットの方が高いと従来から言われていた」事を裏付けるデータであったと考えます。
(6)長期の試験、研究はマウスよりラットで多く行われるという実情があります。反復投与3ヶ月、6ヶ月や1年、発癌性試験の2年などではラットが用いられます。これらの実情はラットの方がマウスより黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに暴露される期間が長くて、暴露される機会が多い事を意味しています。
図37.
3:マウスにおける汚染率は、SPFとその他でほぼ同程度であった点について
(7) 今回の集計結果は、実験動物施設で現実に行われているSPFとその他の管理の相違と一致していない。つまりSPF管理はバリアシステムでハードとソフトによって施設と動物の微生物学的統御が実施されており、Conventionalより手間と費用はかかるし使い勝手はよくないけれどその分、病原微生物からは高度に防御されているはずです。ところが現実にはマウスの黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusでは汚染率がSPFとその他でほぼ同程度であった。従ってマウスにおける黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの汚染率は、動物実験施設における微生物学的統御上のハード、ソフトによるSPF管理とその他の管理との相違とは関係がないと考えます。実験動物施設では実験動物供給施設同様の厳重な微生物学的統御ができません。これは能力がなくて出来ないのではない。実験動物施設が供給施設同様の厳重な微生物学的統御をすると、その統御そのものが実験を遂行する上で障害になる。実験動物を供給する側と使用する側とでは目的が異なる。これに加えて先に述べた(1)(2)(3)(4)事情と(5)(6)の特性があります。
(8)一方、先に述べたこれまで(1)〜(7)の理由とは切り口を変えて菌の側から考えると、実験動物としてのマウス、ラットでのSPF化に伴うノトバイオートGnotobiotes作製後の、生体に対する黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの侵入定着現象の一つと解釈される事です。つまり黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusによる、微生物学的に以前(全ての実験用マウス、ラットがConventionalであった時代)よりは綺麗になったSPFのマウス、ラットの体表及び体内領域への、侵入であり定着であるとの解釈です。これは黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusのもつ生物としての個体維持と種の保存という生物学的な特性によると考えています。言い換えれば、実験動物としてのマウス、ラットを微生物学的に綺麗にすれば綺麗にする程、本来そこにいるべき菌がいなくなって、かわりに黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusのような常在菌がマウス、ラットの体に定着するという考えです。
図38.
IV:以上、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusに見られた
1:マウス、ラットで共に最高汚染率を示した。
2:マウスよりラットで汚染率が格段に高かった。
3:マウスにおける汚染率は、SPFとその他でほぼ同程度であった。
以上1〜3の3点の理由として、先に述べた(1)〜(8)の個別事情および複合事情があると考えられます。
図39.
V:汚染の原因は個々に違い、原因究明を行っても、千差万別です。しかし一般的な原因として次の事が言えます。
1) 遺伝子組換え動物が微生物学的統御の不十分な環境で作出された後で、飼育室に導入される事
2)導入された動物には汚染がなかったけれども、導入した飼育環境に不測の汚染原因があった場合
3)SPF基準の異なる実験動物施設間で動物の授受が行われた際、動物によって病原体が持ち込まれる場合
4)感染動物由来の移植細胞や組織片などの生体試料や、保存中の汚染事故試料による次の個体への病原体持込がある場合
5)SOPに定められた入退室手順不徹底での、ヒトによる病原体の持込がある場合
6)空調機やフィルターなどの事故
7)原因不明
などです。
図40.
尚、今年2006年の検査ではこれまで述べた2005年の汚染項目以外に、今日までに極めて少数ですが、マウスでイエダニOrnithonyssus bacoti、ネズミケクイダニMyocoptes musculinusが、ラットでセンダイウイルスSendai virus(HVJ)、カーバチルスCillia Associated Respiratory Bacillusが検出されています。
図41.
最後になりますが、本講演はここに掲げる方々のご協力をいただきました。お力添えに感謝いたします。以上です。
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