![]() |
|
||||
| エアセキュリティ|微生物関連試験|薬理評価試験|SE事業|商品・製品販売 | イベント情報|更新履歴|サイトマップ | ||
国宝・高松塚古墳壁画の保存については,保存科学部生物研究室(平成13年の機構改革により,現在は保存科学部生物科学研究室となっている)を中心に,特に新井英夫氏が壁画画面からの糸状菌の分離,微生物制御対策としてのパラホルムアルデヒド薬剤の導入とその評価,パラホルムアルデヒド燻蒸のシステム化に貢献してきた。その報告(1)によると,古墳が発掘され,調査や保存工事の過程で石室内は微生物汚染を受け,糸状菌・細菌は未発掘時に比較して2〜3倍に増加し,未発掘時には認められなかったCladosporium sp.が著しく増加したとのことである。また,かつてペトリ皿に入れて配置してきたパラホルムアルデヒドは,実際には気中に蒸散することなく殺菌有効性が乏しいため,新手法として,パラホルムアルデヒドをマントルヒーターで200℃に加熱蒸散し,ダクトで石室内に導入する方法について有効性を検討し,しかし,到達量は気化した薬剤量の1割程度であったこと,この方法で殺菌可能な菌と殺菌有効量に満たない菌種もあると報告している。また,ホルムアルデヒドの発生源としてホルマリンの使用についても新井らは検討したが,過マンガン酸カリウムを使用してホルムアルデヒドを空気中に飛散させる方法については,もし過マンガン酸カリウムが飛散して壁画面に到達した場合には強酸化剤として作用して顔料の変色を誘発するおそれもあり,この手法を用いてはならないと述べている。同時にホルマリン水加熱によるホルムアルデヒド蒸散は,有効量の確保には有利であるが,過剰な水分を石室に持ち込むため壁画の保存には問題があるとの見解を示している。
本報告では,平成14年度以降の再度の糸状菌類の侵入に対して,どのような対策を採ったかを報告し,その基礎的な検討の過程について報告する。
ホルムアルデヒドは蒸気の状態で菌に接触した場合に有効に殺菌が可能となるもので,殺菌に必要な気中濃度は4〜13g/m3と言われている。メルシャンクリンテックの社内資料によると,試験に用いたグラム陽性菌3種(B.subtilis ATCC6633,Staphylococcus aureus 209p, Staphylococcus aureus MRSA),グラム陰性菌2種(Escherichia coli NIHJ,Pseudomonas aeruginosa NCTC10490),真菌2種(Candida albicans ATCC48130,Aspergillus fumigatus TIMM0063)計7種(このうちBacillus,Aspergillusは胞子,その他は栄養細胞で試験)のうち,ホルムアルデヒドガスにもっとも高い抵抗性を示したのはB.subtilisであり,滅菌には250ppmで24時間,600ppmで3時間,2,000ppm(約2.7g/m3)で2時間要したのに対して,Asperugillusはガスに対する感受性が高く,250ppm,1時間の燻蒸でも菌はその後生育しない状態になったとのことである。新井らの石室内での実測は,石室入り口近傍での濃度測定であり,その手法については記録がないが,気中濃度として6g/m3の値を得たと報告している(1)。
パラホルムアルデヒドそのものは,特定化学物質また毒物および劇物取締法で定められた劇物であり,変異原性など人の健康影響への問題がある。日本産業衛生学会の勧告によると,その許容濃度は労働者の健康障害を予防する観点から0.5ppm,0.61mg/m3とされている。
ホルムアルデヒドガスは水への溶解性が高く,古墳内部のように相対湿度の高い空間ではすぐに気中濃度が下がり,殺菌効果が持続しないとも言われている。メルシャンクリンテックの社内資料に寄ると,ビニールで仕切った投薬空間(約25℃,相対湿度70%)中の気中濃度は,24時間経過後に半減したと述べている。しかし過剰量の投薬は,ホルムアルデヒドそのもの,またその酸化生成物であるギ酸による壁画への影響を増大するため,必要最少量での燻蒸手法の確立が重要である。本報告ではまず,より実効性の高い燻蒸方法検討のために,石室内のホルムアルデヒド濃度測定を行うこととした。また先立って,同じ規模の空間内でホルムアルデヒドガス濃度がどのように推移するのかを模擬実験で検討した。
2002年5月14日,東京文化財研究所屋上において,鉄製パイプおよびポリエチレンシートを用いて高松塚石室と似た寸法の空間(寸法1.5m×1.5m×2.5m容積5.625m3)を作った。本来であれば,空間内の相対湿度を高湿度に設定し,また壁面等表面全体を保湿性の高い材料で覆うべきであったが,資材入手に時間がかかったため,この時点では吸湿性の低い材料の空間で試験した。
この空間内で,ホルムアルデヒド発生装置MINI BAS MH-10(メルシャンクリンテック製,送風ファンなし)を用いてパラホルムアルデヒドを約2g/m3,総計11.3gを加熱蒸散させた。この量は,1時間で十分な殺菌力を示す2,000ppmにはいくらか不足する1,500ppmにしか気中濃度は達しない量であるが,実際に高松塚古墳の燻蒸でしばしば用いられる薬剤量であるため,この条件を選択した。この発生装置には送風ファンが付随していないこと,また燻蒸のための有効量を上げるために石室内での加熱蒸散を予定していたため,試験空間の南端に見立てた位置から30cm,東西壁に見立てた長辺方向の壁から等距離に設置して,発生したホルムアルデヒドガスがどの程度の時間で北壁に見立てた壁近傍まで到達するかを測定することとした。実際には,試験当日の天候は快晴,風あり,24℃,実験終了時点では実験テント内は34℃に達していたため,テント内にはかなりの対流が生じてガス拡散に寄与していたと推定される。
濃度測定には,燃焼型のセンサーを持つホルムアルデヒド検出器NABA RP-1(メルシャンクリンテック製)を2台使用し,2点で測定した(センサーは床置き)。この検出方式は有機物を燃焼させる際に生じる燃焼熱から有機物量を推定算出する方法で,ホルムアルデヒド以外のすべての有機物ガスが濃度測定の際の妨害となる。またこのセンサーの短所としては,バックグラウンド値を30分測定してその平均値を0として認識させるゼロ校正が必要であるため起動までに時間がかかること,また100%値についてはその場で濃度校正できずメーカーに戻して調整が必要な点に問題がある。燃焼型センサーを用いての測定にあたってもっとも注意を要する点はメモリー効果,すなわち高濃度のガスに曝すと数値が0に戻らないことであり,そのメモリー効果の程度をあらかじめ把握しておくことは測定上必要である。発生装置および濃度測定センサーの配置(上から見たところ)は図1のとおりであるが,濃度測定についてはより多数点での測定を行うために,検知管ホルムアルデヒド用No.91(2〜20ppm)およびNo.91M(20〜2,000ppm)(ガステック(株))を用いて,逐次,センサー間あるいはセンサー近傍の濃度を直接測定した。
除毒には循環型ホルムアルデヒド酸化分解装置安全キャビネット用FOTRAM(メルシャンクリンテック製)を用いた。この装置の原理は,数百℃に加温した特殊な半導体上をホルムアルデヒドを含む空気を通気させると水と炭酸ガスに分解するというものであり,装置内に加温部・半毒導体および送風装置が組み込まれている。この装置は,実際に高松塚では取り合い部に設置することを想定し,直接に空間内には設置せず,ホルムアルデヒドガスを満たした空間内にダクト2本を用いて配管した(写真1,2)。
試験サイクルは以下の通りである。退避時間1分で20分間加熱してホルムアルデヒド蒸散を誘導し,加熱終了後60分間放置して,その後30分間除毒した。蒸散・除毒の試験サイクルを2回繰り返し,濃度上昇と減衰について,測定した。1回目の測定は,長辺方向(南北方向に見立てたもの)でホルムアルデヒドガス拡散に時間差が生じるかを検討するため行い,加熱・密閉放置中は10分間隔,除毒中は1分間隔で測定した。2回目の測定は北壁近傍での東西方向で濃度差が生じるかどうかを知るため,センサーの位置を変更しておこなった。また加熱蒸散中の気中濃度をより短い間隔で知るため,2回目の測定では加熱中,また除毒中は1分間隔,密閉放置している間は2分間隔で測定した。
![]() |
|
図2−1に1回目の試験結果を,図2−2に2回目の結果を示す。試験の過程で,2台の濃度測定器のうち1台の燃焼型センサーの100%値校正に問題があることが判明したため,センサー近傍のホルムアルデヒド濃度を検知管で6回測定し,その値でセンサーBを校正,換算後の値を図に示した。
図に見られるように,20分後の加熱終了時に気中濃度はいずれの場所でも最高値を示し,その後,放置時間に伴いゆっくり減少していく。ポリエチレンシートのように比較的吸湿性の低い材料であっても,ホルムアルデヒドはすばやく吸着して,放置60分後には半減することがわかる。また,除毒装置稼働後すみやかに気中濃度は減衰し,30分後には30ppm以下となった。いずれの測定でもメモリー値として30程度を示すことがわかった。
1回目の測定では,発生装置からの距離が異なる位置にセンサーを置いているため,距離の近いセンサーAでの測定値の方が高く,距離が遠くなるに従い気中濃度がいくらか下がるが,その到達時間については1分程度の差に過ぎないことがわかった。2回目の測定では,センサーはほぼ等距離に置かれているため,ほぼ同じ測定値を示した。
以上の結果から,ある程度対流があり,壁材への吸着の少ない条件でも,ホルムアルデヒド濃度には空間内で分布が見られ,また1時間で気中濃度は半減した。実際に高松塚古墳内のようにほぼ対流のない,しかも吸着しやすい壁に囲まれ,水分量も多い条件下で,ガス濃度を空間内で一定にしてある時間保つことは容易ではないと推測された。
平成14年6月,高松塚石室内において,ホルムアルデヒド燻蒸にあわせて石室内でのホルムアルデヒド濃度の実測をおこなった。マントルヒーターで過熱したパラホルムアルデヒドから蒸散したホルムアルデヒドをダクトで石室内へ送り込む方式では,ダクトに残留するホルムアルデヒド量が多いため,より滅菌効果を高める目的で,今回は石室内で前述のホルムアルデヒド発生装置を稼動させた。発生装置は石室入り口より約30cm内部に据え,入り口よりもっとも遠い北壁西寄りにセンサーを置き,1分ごとの測定値を記録した。使用機器は上述したホルムアルデヒド検出器NABA RP-1(メルシャンクリンテック製)であるが,模擬試験の際に濃度換算が必要となったセンサーBの機器を使用できなかったため,1ヶ所での測定となった。この測定の時点ではまだ石室内東壁下部で黴の生育のおそれがあったため,パラホルムアルデヒド薬剤量は模擬試験より多い4gを用いた。もし吸着なく蒸散すれば,気中濃度にして3,000ppmとなる量である。退避時間として3分を設定し,加熱時間については石室内への熱の放出を最低限に抑える目的で,模擬試験時より短めの15分とした。濃度の実測結果を図3に示す。
発生装置稼動後5分で最大値をとったのち,石室内北壁近傍のホルムアルデヒド濃度は減衰し,たしかにホルムアルデヒドガスは北壁には達しているが,比較的ホルムアルデヒド感受性の高い糸状菌滅菌のために必要な2,000ppmを達成していないことがわかった。しかし,1時間密閉放置したところ濃度は下がることはなく,その後,除毒装置によるホルムアルデヒド分解を行っても除毒装置稼働2分後に80ppmまで下がってその数値を維持し,30分稼動後に除毒装置を停止すると緩やかに数値は約100ppmに回復した。この濃度測定装置のメモリー値は,模擬試験の結果から約30の数値を示すことがわかっているので,この結果から,石室内に存在する水分にホルムアルデヒドが溶け込みホルマリンとして存在し,気中濃度が減少するとホルマリンからホルムアルデヒドが蒸散するなどして,常に気中濃度は70〜数十ppmの一定値となっていることがわかった。このような低濃度のホルムアルデヒドガスの存在下では殺菌は難しいが,Aspergillus胞子に対して250ppm,1時間で生育不能となることを考えると,ある程度,壁表面に存在する栄養細胞の生育は阻止している可能性はある。
この結果から,古墳のような高湿度環境下では,化学薬剤による空気および壁面の滅菌は,拡散が不十分なこと,また吸着が大きいため殺菌濃度まで気中濃度を上げるには多量の薬剤が必要であることがわかった。しかし多量の薬剤使用は局所的な薬剤濃縮を招きやすく,残留薬剤による壁画への影響のおそれがあり,また作業環境の悪化も無視できないことから,ホルムアルデヒド燻蒸にのみ頼る微生物制御では高松塚古墳の微生物汚染を回復できず,侵入の予防,清掃,局所的な殺菌など,他の抑制手法との併用が必要となっていることがわかった。
高松塚古墳においては,微生物制御,また作業環境の把握と改善を目的に,平成13年9月より適宜,浮遊粒子状物質の採集と観察,また浮遊菌採集と環境評価をおこなっている。以下にその方法と結果を述べる。
SKC社のAir-O-Cell Samplerを用い,15L/分の速度で計75〜150Lの空気を専用の粘着プレートを組み込んだカセットに吹き付けて,浮遊粒子状物質を捕集する。その後,実験室に持ち帰り,生物顕微鏡で適宜拡大観察して,その容量の空気中に含まれる真菌類の個数および形態を観察・計数する。
捕集場所は,適宜変更はあるが,原則的に準備室,前室A,B,機械室,外気(参照)である。サンプリング高さは約1mである。
サンプリングにはBIOサンプラー(ミドリ安全社製)を用い,使用培地は原則としてニッスイプレート サブロー寒天培地(日水製薬(株))を使用した。サンプリング量は,必要に応じて50〜150リットルである。採集試料は持ち帰り,室温で3〜10日間培養し,生育したコロニーを計数した。計数は各試料に対して,日を変えて2回以上おこなった。
サンプリングは滅菌綿棒を用いて,空気清浄機の吹き出し口などに対しておこなった。確実にふき取り消毒の可能な面に対しては,フードスタンプ サブロー寒天培地(日水製薬(株))で直接採取した。培養は室温で7〜10日行い,生育したコロニー数を計数した。
浮遊粒子状物質を粘着プレートに捕集する方法は,現地に生物顕微鏡があれば,その場で浮遊粒子状物資や浮遊菌量の多少がわかり,石室を開口して良いかなど, 即座に判断を下せる方法であるが,記録性に乏しいことが欠点である。これに対して浮遊菌を採取して後に培養して環境を評価する調査方法は,作業による発塵の程度や清掃の効果,空気清浄機で空気を処理した場合の有効性の評価など,微生物対策の評価には不可欠な測定であるが,現地で結果がすぐにわからない点が短所である。
表1にこれまでの推移を,表2にある1日の関係箇所の浮遊菌量の多少を示す。空気の流れとしては,人の作業中には保存設備内を換気するため,機械室から前室Aへの空気移動がある。また室のつながりとしては外気と扉一枚で隔たった位置が準備室で,作業者はこの中で脱着衣している。保存設備の概略を図4に示すが,正確な図は本誌石崎著の報告の中に詳細図があるので参照されたい。

クリーンルームと同等なステンレス製の壁を持つ保存設備内では,一般居住環境に比較すると浮遊菌量は少なく保たれていることがわかった。周囲の農耕地帯に飛散する浮遊菌量は春秋期には増大期を迎え,それに伴い保存設備内への侵入の危険性も増していくが,実際には前室Aの汚染レベルが上昇していないのは,準備室に空気清浄機を備え,十分稼働後に入室するなどの手順を守っているためと推定される。かつて壁画保存作業は主に2〜3月の寒冷期に行っていたが,これは浮遊菌侵入の危険性を考えると実に妥当な処置であったと考える。また,取り合い部・石室内などの大地とつながっている部分は,保存設備内の汚染状況とは無関係に,季節に応じて浮遊菌量は増加・減少を繰り返していた。しかし菌種については菌数とは異なり,当初,黴による壁面汚損が見つかった段階では黄色や青色,黒色の胞子を産生するさまざまな菌種が捕集されたが,現在では白い菌糸体を持つ数種のものが優勢となった。
2002年12月10日には,石室内に小さな空気清浄機を入れて,空気清浄機による除菌効果を検証した。空気清浄機の稼働は有効ではあったが,実際には1時間の稼働で浮遊菌量を半減させるにとどまり,殺菌対策として完全ではないことが明らかになった。
2003年10月27日採取の浮遊菌量が著しく多いが,この時の石室内の状況は開封後,床面に敷いていた非固着性シリコンガーゼ(トレックス,富士システムズ(株))を撤去した直後であり,もっとも浮遊粉塵量が多いと思われる状況での測定である。2003年4月27日の石室内浮遊菌量が作業が進むにつれて減少しているのも,シリコンガーゼ撤去で舞い上がった粉塵が床面に再び沈積するために,かえって飛散量が減少するものと推定される。このように,床面からの粉塵の飛散のためか,作業とともに浮遊菌量が増加する以上,作業中から作業後にかけて保存作業による発塵を低減させる処置として,保存設備内で空気清浄機を稼働させることは有効であると考える。
2003年12月5日には浮遊菌量が全体的に低下しているが,これは保存設備内と機械室の清掃・殺菌を行った成果であると考えている。
付着菌の調査結果を図5に示す。比較的床面に近く,粉塵のたまりやすい床から20cmのポイント,またちょうど人の手の触れるあたりである床から100cmの位置を中心に,付着菌量が増加する傾向であった。しかし,準備室の空気の澱みにあたる薬品棚床面近くを除いて,保存設備内(準備室,前室)の付着菌は少なく,繰り返しの清掃が重要と考えられた。
空気清浄機については,汚染物をろ過して捕集しているため,高湿度下で放置すると捕集面に黴が繁殖し,かえって汚染を助長する危険性をはらんでいる。今回の調査でも,いくつかの部分で付着菌が検出され,定期的な清掃とフィルターの交換が不可欠であることが判明した。
機械室については,外扉の内側部分では多量の付着菌が検出されたが,室内に入って2mほど奥にはいった温度表示器では,付着量は減っていた。しかし保存対策用の機材を保管する場所であるため,より清浄な空間とすることが必要であり,この調査の後,いずれの場所もエタノールで清拭した。
測定:2003年4月23〜24日と12月15日におこなった。前者は検知管(ガステック(株),二酸化炭素No.2L,No.2,酸素No.31,エタノールNo.112L,水蒸気No.6)を使用して行い,後者は二酸化炭素濃度測定装置(テストターム社)を用いた。
2003年4月の調査時点(表3,4)では,前回調査から4日の間隔での開封であった。開封当初は,約6,000ppmあった二酸化炭素も,人間の入室のために換気して酸素を取り込むため, 作業2時間半後,石室内でも1,500ppmまで下がっていた。翌朝,3,600ppmまで回復していたが,この炭酸ガスの発生源は漆喰壁間隙中にある水分からであろう。2003年12月の調査では,3週間振りの開封であったため,二酸化炭素ガスは開封当初には1万ppm超で,二酸化炭素濃度測定装置(テストターム社)では測定不能であった。
酸素濃度は外気の21%に対して若干低めであった。エタノールについては,この時点では取り合い部の殺菌等のために使用していたため残留が認められた。
以上から,保存作業に伴い石室内に導入される空気により作業者の安全は確保されるが,酸素濃度は確実に高くなり,好気性である黴の繁殖には有利な状況に変わっていくことがわかった。

以上の結果から,古墳のような高湿度環境下では,化学薬剤による空気および壁面の滅菌は,拡散が不十分なこと,また吸着が大きいため殺菌濃度まで気中濃度を上げるには多量の薬剤が必要であることがわかった。また,調査や保存対策のために入室することは,汚染を持ち込むおそれがあり,十分な準備を持って保存対策にあたる必要があることが明らかになった。
現在では,ホルムアルデヒド燻蒸にのみ頼る微生物制御ではなく,黴等汚染の侵入防止,清掃,局所的な殺菌など,他の抑制手法と併用する方向に変更している。準備室に空気清浄機を設置し,十分に空気が清浄になったことを確認後に入室している。パラホルムアルデヒドを用いての燻蒸はできる限り行わない方向で,測定作業中も石室内にダクトを持ち込み,前室Aに設置した乾熱滅菌装置を通して空気を戻し,また同時に前室Aにも空気清浄機を設置して,石室内に汚染が拡大しないように直接,空気を処理している。
高松塚壁画保存対策の基本方針は,外部からの汚染を持ち込まないという点で不変である。しかし同時に,問題がなければすべて良しではなく, 予防的な観点からもより確実な汚染防御対策の確立が必須と考える。
【謝辞】
ホルムアルデヒド蒸散模擬試験において,作業を補助していただいた森克之氏に感謝します。また,微生物の殺菌等についてご教示いただいたメルシャンクリンテック 古川氏・永江氏に感謝いたします。
【引用文献】
(1) 新井英夫:高松塚古墳壁画の微生物学的環境とその対策,国宝・高松塚古墳壁画−保存と修理−,文化庁,186−196(1987)
キーワード:国宝高松塚古墳(Takamatsuzuka tumulus) ;ホルムアルデヒド燻蒸(fumigationwith formaldehyde) ;
石室内気中濃度(concentration in the chamber) ;浮遊菌(floating fungi);付着菌(adhesive fungi)
Control of Microorganism in Takamatsuzuka Tumulus
−Paraformaldehyde Fumigation and Its Concentration in the Tumulus−
Chie SANO,Hajime MABUCHI and Sadatoshi MIURA
This report presents a record of the actual work done at Takamtsuzuka tumulus after the mold invasion of 2000 and the present situation.
To make the fumigation more effective,we changed the fumigation system from supplying the tomb with formaldehyde gas by an airpipe to direct vaporization of formaldehyde in the tumulus.However,the actual concentration of formaldehyde did not each the effective concentration of 2,000ppm for fumigation,even though enough amount of paraformaldehyde was vaporized by heating. At last,we adopted direct disinfection of lime plaster in the tumulus with alchol and removed hypha from the east wall.Soil dusts that rise from the floor during conservation work was actively removed by filtration with air cleaners.In evaluating the countermeasures,we collected air-floating fungi with BioSampler,Midori Anzen,Co. Ltd.and cultured them. To reduce the molds on the wall, we cleaned the walls of the restoration building adjacent to the tumulus and tested the effectiveness by direct sampling of molds on the wall.
![]() |
株式会社メルシャンクリンテック 〒251-0057 神奈川県藤沢市城南4-9-1 TEL(代):0466-35-6314 FAX(代):0466-35-6329 E-mail:office@m-cleantec.com |
医薬製造の方へ|食品製造の方へ|実験動物施設・研究所の方へ|FAQ|技術情報一覧|イベント情報|求人情報 エアセキュリティ|微生物関連試験|薬理評価試験|SE事業|商品・製品販売|更新履歴|サイトマップ|会社情報|お問合せ |